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東京地方裁判所 平成11年(ワ)20833号・平11年(ワ)14836号 中間判決

主文

本件反訴は適法である。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  本訴について

1  原告

(一) 被告は、原告に対し、金二〇〇〇万円及びこれに対する平成一一年七月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(二) 被告は、原告に対し、名刺ファイル帳一冊を返還せよ。

(三) 訴訟費用は被告の負担とする。

(四) 仮執行宣言

2  被告

(一) 原告の請求をいずれも棄却する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

二  反訴について

1  被告

(一) 原告は、被告に対し、別紙物件目録記載二の建物を明け渡せ。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

(三) 仮執行宣言

2  原告

被告の反訴請求に係る訴えを却下する。

第二当事者の主張

(本訴について)

一  原告の請求原因

1 被告の不法行為

(一) 被告は、平成八年七月五日に、原告宅(別紙物件目録記載二の建物。以下「本件居室」という。また、同目録記載一の建物を「本件建物」という。)のドアをこじ開け、不法に侵入のうえ、原告所有の現金、トラベラーズチェック、書類、ビデオテープ、業務用ビデオカメラ、業務用ビデオ編集機、モニターテレビ、ステレオ装置、タンス、本棚、その他本件居室内にあった全家財道具一切(以下「本件家財道具」という。)を不法に奪い、原告がこれを引き続いて利用することを妨げた。

(二) 被告は、平成八年九月初めころ、原告から右のように不法に奪った本件家財道具を搬入するため、本件居室に不法に侵入した。

(三) その後も被告は、原告不在中に本件居室に不法侵入を繰り返し、原告の机や引出しを物色した。

(四) 被告は、平成八年七月から九月にかけて、本件居室に不法侵入した際に、原告のNTT回線電話を無断で複数回使用した。

(五) 被告は、前記1のように原告所有の全家財道具を不法に奪った後、約二か月間にわたり、右家財道具を隠匿し、勝手に被告の占有下に置き、原告の使用収益を妨げた。

(六) 被告は、本件家財道具のうち特に電気製品(業務用ビデオ、洗濯機、冷蔵庫等)を故障させた。

(七) 被告は、原告所有の名刺ファイル帳のうち、マスコミ関係のもの一冊を盗んだまま返還しない。

(八) 被告は、本件居室に不法侵入した際に、原告のノートや私信、大学の成績表等のプライバシーに関わるものを不法にのぞき見た。

(九) 被告は、本件家財道具を全く無造作に本件居室内に無断で搬入したため、原告に対しその整理確認に膨大な手間と時間をかけさせることになった。

2 被告の損害 合計二〇〇〇万円

原告は、被告の不法行為によって、次のような損害を被った。

(一) 財産的損害     合計二七七万一九八六円

(1)  公共料金関係           一万九七一〇円

被告が右1の(一)及び(五)のとおり原告所有の本件家財道具を奪ってその使用収益を妨げたため、原告は、その当日である平成八年七月五日から、原告が警察とともに現場保存してあった本件居室に戻った同年一一月一四日までの合計四か月と一〇日間、原告は家賃も支払い、公共料金も支払っている自室を使用することができない状態になった。この間の水道及び下水道代、電話料金並びに電気料金合計一万九七一〇円は、被告の右不法行為による損害である。

(ア) 一か月の水道及び下水道料金     一八七五円

(イ) 一か月の電話料金(NTT)     二四二〇円

内訳

<1> 一般回線使用料          一七五〇円

<2> 屋内配線料             一二〇円

<3> 電話機使用料            一八〇円

<4> キャッチホン使用料         三〇〇円

<5> 消費税三パーセント(当時)      七〇円

<6> <1>から<5>の合計      二四二〇円

(ウ) 電気料金               二五七円

(エ) (ア)から(ウ)までの合計     四五五二円

(オ) (エ)の金額の四か月と一〇日分 一万九七一〇円

(2)  交通費・宿泊費関係        三万二〇三〇円

同様に、原告は被告の前記1(一)及び(五)の不法行為により、次の損害三万二〇三〇円を被った。

(ア) 京都発東京ミニ周遊券(往復のJR普通乗車券に相当。)及び京都発東京行ひかり指定席特急券

二万一四一〇円

(イ) 東京発京都行ひかり自由席特急券   四七三〇円

(ウ) 宿泊料一泊分            五八九〇円

(エ) (ア)から(ウ)までの合計   三万二〇三〇円

(3)  不法侵入のうえでの無断電話使用分     九〇円

原告は、前記1の(四)のとおり被告によって電話を無断使用されたことによって次の損害八〇円を被った。

(ア) 平成八年七月六日から八月五日まで    一〇円

(イ) 同年八月六日から九月五日まで      一〇円

(ウ) 同年九月六日から一〇月五日まで     五〇円

(エ) 一〇月六日から一一月五日まで      二〇円

(オ) (ア)から(エ)までの合計       九〇円

(4)  原告の支払った国際電話料   合計九万一三三六円

これは、被告の前記1の(一)及び(五)の不法行為による損害である。

(5)  壊れたアンティークの電気かさ       三万円

(5) から後記(9) までの損害は、被告の前記1の(六)の不法行為による損害である。

(6)  冷蔵庫                  四万円

(7)  洗濯機                  五万円

(8)  壊された業務用ビデオデッキ関係(これらは修理不能となった。各損害額はいずれも定価である。) 二五〇万〇四〇〇円

(ア) ビクターCR-六六〇〇    五五万五五〇〇円

(イ) ビクターCR-八二〇〇        九八万円

(ウ) ビクターRM-八八(コントローラー) 六五万円

(エ) ビクターBR-六四〇〇    三一万四九〇〇円

(オ) (ア)から(エ)までの合計 二五〇万〇四〇〇円

(9)  右ビデオ修理の試みに要した運賃類   八四二〇円

(ア) ビデオ運送費            六七二〇円

(イ) タクシー代             一七〇〇円

(ウ) (ア)と(イ)との合計       八四二〇円

(二) 慰謝料        一七二二万八〇一四円

3 よって、原告は被告に対し、不法行為に基づき、損害合計二〇〇〇万円とこれに対する不法行為の後である平成一一年七月一二日(訴状送達の日の翌日)以降の民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する被告の認否、反論

1 認否

(一) 請求原因1の(一)から(九)までの事実はいずれも否認する。

(二) 同2の事実は不知ないし争う。

2 反論

(一) 本件においては、次の(1) から(4) までの事情が認められるから、被告が本件居室内に立ち入ったこと、並びに本件居室内に立ち入ったうえで本件家財道具を搬出したことは、加害行為と評価することはできない。

(1) (ア) 反訴における請求原因のとおり、本件賃貸借契約は、平成七年九月三日付け書面(普通郵便)が到達した平成七年九月六日ころから六か月間の経過により終了した。

(イ) また、原告は本件賃貸借契約において、「賃借人は、一五日以上継続して空室にする場合は、あらかじめ賃貸人に通知しなければならない。もし無断不在壱ヶ月以上におよび所在不明のときは、この契約は失効するものとする。この場合、賃借人は賃貸人が連帯保証人もしくは公正なる立会人を求め本物件内の賃借人の遺留品を搬出保管するも異議ないことを特約す」(乙三の契約書第八条)と約定している(以下「本件特約」という。)。原告は、少なくとも平成七年九月六日ころから平成八年二月二七日までの約六か月間無断不在であり、かつ、所在不明であった。よって、本件賃貸借契約は、原告から応答のあった平成八年三月一日ころまでに本件特約により当然に失効し、終了していた。

(2)  本件建物の老朽状態

本件建物は、一般的な木造建物の耐用年数に近づきつつあったうえ、敷地の軟弱地盤と構造部材の脆弱性を内包しているので、震度五程度の震災時には倒壊又は大破壊が懸念される状況にあった。

また、一〇三号室及び二〇三号室(本件居室)の使用については、南東隅付近の地盤改良と基礎の補修、補強及び上部構造部、仕上げ部の垂直性、水平性の回復等の補修、補強工事が必要な状態であった。しかし、このような補修、補強工事は不可能に近く、本件建物を取り壊し、地盤改良を行い、再建築する必要があった。

このようなことから、本件建物は直ちに取り壊すべき建物であると判断される状況に至っていた。

(3)  被告は、右(1) のように本件賃貸借契約は既に終了しているものとして、本件特約に基づき、本件居室内に立ち入り、原告が残置していた本件家財道具を搬出・保管したものである。

(4)  原告は、被告から立退申入れに応答した平成八年二月下旬以降も、本件貸室を不在にしたまま所在不明の状態を続けた。

(二) 請求原因1の(一)から(九)に対する反論

(1)  請求原因1の(一)について

前記の事実経過のように、被告が原告に再三退去するよう求めても何ら応答がなく、かつ、本件建物を老朽化のため早急に解体する必要があったことから、被告は本件賃貸借契約が終了済みであるとの認識の下、本件居室内に残置されていた本件家財道具を原告に引き渡すまでの間一時的に保管するため、本件居室内に立ち入り本件家財道具を搬出・保管したものである。したがって、被告は「不法に侵入」したものでもなければ、本件家財道具を「窃取」したものでもない。そして、その搬出及び保管に際しては、専門の保管業者に依頼して、適切な管理が十分期待できる安全な場所に丁重に移動させたものであり、その方法においても適切な手段を講じたのである。

また、当時原告は常時不在で、本件家財道具を現実に使用収益し得る状況にはなかったから、原告の利益の侵害は現実的にはなかった。

このように被告の行為は不法行為を構成しない。

(2)  同1の(二)について

本件家財道具を本件居室内に搬入することは原告自身が要求していたことであるから、その搬入のために本件居室内に平穏に立ち入ることは、何ら不法な行為ではない。

(3)  同1の(三)について

本件家財道具の搬出と搬入時以外に被告が本件居室内に立ち入った事実はない。したがって、当然室内を物色した事実もない。

(4)  同1の(四)について

原告の主張するような事実は全くない。

(5)  同1の(五)について

前記(1) のとおり、原告が損害を被ることはなかった。

(6)  同1の(六)について

原告が主張するような事実はない。

(7)  同1の(七)について

原告が主張するような事実はない。

(8)  同1の(八)について

原告が主張するような事実はない。

(9)  同1の(九)について

前記のように、被告は搬入時と同様、専門業者に委託して丁重に搬入し、可能な限り元どおり再現するよう指示したものである。

三  被告の主張(抗弁)

1 緊急避難

前記二2(一)の(2) に述べたように、本件建物は放置することのできない危険な状態で、直ちに取り壊すべき状況に至っており、防災、防犯上の観点からも放置できない状況となっていた。他方、原告は本件居室を不在にしたまま所在不明の状態を続けていた。他方、原告は、前記二2(一)の(4) に述べたとおり、被告からの立退申入れに応答した平成八年二月下旬以降も、所在不明の状態を続けていた。

したがって、右のような客観的状況の下においては、建物所有者である被告としては、防災上及び防犯上の観点から、緊急避難行為として本件居室内に立ち入り、本件家財道具を搬出・保管する必要があった。

2 自救行為

右1のような状況に照らし、建物所有者である被告が本件居室内に立ち入り、本件家財道具を搬出・保管することは、自救行為としても許されるというべきである。また、その搬出・搬入行為は、その手段ないし行為態様においても相当性を有するものであった。

四  被告の主張に対する原告の反論

1 緊急避難について

本件においては、裁判所の令状なく他人の住居に立ち入り財産を搬出することが許されるほどの急迫の危難は存在しない。したがって、事務管理も緊急避難も成立しない。

被告は、一億円も借金して本物件を買ったものの、地下下落で大きく思惑外れとなり、被告の一身上の借金地獄からの緊急の非難、脱出を求めたにすぎず、その行為が法律上の緊急避難に該当することはない。

2 自救行為について

一般的自力救済が認められるには、<1>請求権の存在、<2>請求権の保全を目的とし、<3>事情の緊急性、<4>手段の相当性の要件を必要とする。特に、右の要件のうちの緊急性については、公力の救済によっていたのでは、その請求権の実現は不能となるか、又は著しく困難となる事情があることを要するものというべきである。本件は、緊急性が皆無という状況であった。

(反訴について)

一  被告の請求原因

1 賃貸借契約の成立

本件建物の所有者であった中杉修三ほか一〇名は昭和五五年三月二〇日ころ、期間を二年、賃料月額五万六〇〇〇円で本件居室を原告に賃貸した。その後同契約は逐次約定更新され、昭和六三年以降の賃料は月額七万三〇〇〇円に改定された。

2 賃貸人の変更

被告及びその妻乙子悦子は、平成五年一月一五日、中杉修三ほか一〇名から本件建物の共有持分全部の譲渡を受け、原告に対する賃貸人の地位を承継した。

3 本件賃貸借契約の終了

(一) 正当事由の存在

(1)  本件建物の老朽化

前記(本訴について)の二2(一)の(2) に述べたとおり、本件建物は、老朽化や地盤沈下等により、これを直ちに取り壊し、地盤改良を行い、再建築する必要がある状況であった。

(2)  被告の転居の必要性

被告は本件建物の近くに居住しているが、自宅の建物も老朽化したうえに手狭になり、より広い住宅に転居する必要があった。

(3)  原告の建物使用状況

本件居室は、「居住」を使用目的として賃貸されたものであるが、原告は本件居室に常時不在であり、これを住居として使用している形跡はなく、実際には家財道具類を保管する倉庫のような使用状態であった。そして、平成七年九月当時、被告が原告と面談したり電話で連絡をとることすらできない状態であった。

(4)  本件特約の存在

原告は、本件特約にもかかわらず、一か月以上にわたる無断不在の状態を頻繁に繰り返していた。

(5)  他の賃借人の対応

他の賃借人三名は、建替えの必要性に理解を示し、平成八年二月ころまでに円満に本件建物を明け渡した。

(6)  初回解約申入れ後の立退交渉の状況

原告は、被告の再三にわたる面談や協議の申入れに対し、これを無視したり、好戦的な回答文書を送付して、円満な協議を拒否し続けた。

(7)  無人状態の継続

無人状態が継続し、警察官から再三忠告をされたり、火事や地震による倒壊の恐れから、所有者として放置できない状態となった。

(8)  信頼関係の破壊

被告は原告に対し、平成七年九月三日の初回の解約申入れ以来、建物の老朽化による建替えの必要性を丁重に説明し、誠実に協議を申し入れたが、原告は当初はこれを無視し、その後は調停申立てや裁判提起がされなければ協議に応じない旨通告して任意の協議を拒否し、終始一貫して円満な協議を拒んできた。

また原告からの返信文書には、「本件物件の登記にはノンバンクより多額の抵当権が設定せられて居る状況で、貴殿の行為は『地上げ』そのものと呼ぶ他なく連日マスコミが批判する住専、不良債権問題と同一線上にあり…」、「ノンバンクからの小売りの資金が貴殿に如何なる結末をもたらそうと、すべては地上げという反社会的行為の報いであり、自業自得と申す以外、一借家人の私には無関係であります」などといった趣旨不明の記載がされていたり、「貴殿は自ら行った借入金による地上げ行為に対し、何ら反省することなく、こちらからの調停の御提案も拒否され、バブル期のヤクザ同然の犯罪行為をなされたわけですから、その償いは金銭ではなく、刑務所に入られることで行って頂くのが妥当と考える次第です。」などと、脅迫とも受け取れる趣旨不明の記述がされていた。

そして原告の異常な言動は、その後被告の周辺関係者に対しても次々となされるようになった。

すなわち、原告は、平成八年八月一四日ころ株式会社セントラルファイナンスに対し書面を差し出し、同年八月一五日ころ、同年九月一一日ころ及び同年九月三〇日ころ、被告の勤務するプルデンシャル生命株式会社の社長室宛にそれぞれ書面を差し出した。さらに原告は、同年一二月二日ころ、プルデンシャル生命と同業のソニー生命の横浜支社長宛に被告を誹謗中傷する電話をかけた。また、平成一一年七月一四日ころ、原告は、プルデンシャル生命の全役員宛に、脅迫ないし強要めいた書面を差し出した。

(9)  まとめ

以上のとおり、被告は、建物の老朽化・地盤沈下のために、本件建物を建て替える必要に迫られている事情があり、原告に対しその明渡しを求める合理的な理由がある。

他方、原告は本件居室を倉庫代わりに使用しているにすぎず、住居としての実態は全くなく、明渡しを拒む合理的理由は皆無である。

加えて、右のような原告の異常な言動から明らかなように、もはや原告と被告間との信頼関係は完全に破壊されている。

(二) 解約申入れ(その一)

被告は原告に対し、平成七年九月三日付け書面で、本件建物の老朽化による解体を理由として本件賃貸借契約の解約を申し入れ、同書面は同月六日ころ原告に到達した。

よって、本件賃貸借契約は、六か月間(平成八年三月六日)の経過により終了した。

(三) 解約申入れ(その二)

仮に右(二)の主張が認められないとしても、被告は原告に対し、平成八年一月二一日付け書面で、本件建物の老朽化による解体を理由として本件賃貸借契約の解約を申し入れ、同書面は同月二四日ころ原告に到達した。

よって、本件賃貸借契約は、六か月間(平成八年七月二四日)の経過により終了した。

(四) 解約申入れ(その三)

仮に右(三)の主張に理由がないとしても、被告は原告に対し、平成八年二月一九日付け書面で、本件建物の老朽化による解体を理由として本件賃貸借契約の解約を申し入れ、同書面は同月二二日原告に到達した。

よって、本件賃貸借契約は、六か月間(平成八年八月二二日)の経過により終了した。

(五) 解約申入れ(その四)

仮に右(四)の主張に理由がないとしても、被告は原告に対し、平成八年三月一一日付け書面で本件居室の明渡しを求め、もって本件賃貸借契約の解約を申し入れ、同書面は同月一四日ころ原告に到達した。

よって、本件賃貸借契約は、六か月間(平成八年九月一四日)の経過により終了した。

(六) 解約申入れ(その五)

仮に右(五)の主張に理由がないとしても、被告は原告に対し、平成八年六月一四日付け書面で本件建物の明渡しを求め、もって本件賃貸借契約の解約を申し入れ、同書面は同月一八日原告に到達した。

よって、本件賃貸借契約は、六か月間(平成八年一二月一八日)の経過により終了した。

(七) 解約申入れ(その六)

仮に右(六)の主張に理由がないとしても、被告は原告に対し、訴状をもって本件賃貸借契約を解約する旨の意思表示をした。

よって、本件賃貸借契約は、六か月間の経過により終了した。

8 よって、被告は原告に対し、本件賃貸借契約終了に基づき本件建物の明渡しを求める。

二  原告の本案前の主張

1 反訴は、原告が異議を申し立てただけで当然に不適法なものとなるというべきである。

2 被告の反訴請求は、原告の本訴請求と何ら無関係であり、本訴の防御方法と関連するものではない。したがって、本件反訴請求に係る訴えは、不適法として却下されるべきである。

すなわち、原告は、本訴において賃貸借の有効性とは関わりなく、被告が違法な自力救済によって犯行に及んだことの責任を追及しているものである。したがって、将来仮に明渡しを命ずる判決が下されることがあっても、被告の犯行時点(平成八年七月五日)にまで遡って違法性が阻却されるわけではない。被告が犯行当時いかに明渡しの正当事由の具備を確信していたとしても、現実に被告のとった行動は、原告の度重なる警告を無視した実力による明渡しの強行であり、正式な司法手続によらないものであった以上、後から反訴を提起してみても、被告の短絡的犯行の違法性を阻却できないことはいうまでもない。

被告の所論に従うと、犯行後であっても、後日明渡請求認容の判決が出される可能性がある限りは、過去に遡って犯行が正当化され、名誉回復されることになってしまい、全く論理的に破綻しているというべきである。

三  原告の本案前の主張に対する被告の反論

1 原告の本訴請求は、被告が本件居室内に立ち入り、原告の所有である本件家財道具を一時的に建物外に搬出したことが、窃盗行為に該当するなどとして、これに基づく損害賠償を求めるというのが主たる請求であると解される。

被告は、本件家財道具の搬出が窃盗であること(すなわち、不法領得の意思をもって取得したこと)を否認し、右搬出行為が、解約申入れによって本件居室の賃貸借契約が終了したことに基づいて一時的に保管したもの(その性質は事務管理)であると主張するものである。

他方、被告の反訴請求は、被告からの解約申入れによって本件賃貸借契約が終了したことに基づいて本件居室の明渡しを求めるものである。

したがって、右本訴請求と反訴請求とは、本件居室の賃貸借契約の内容、同契約の解約申入れの事実及び右解約申入れに関する正当事由たる事実に関して共通点を有するものであり、本訴を理由なからしめる事実が、反訴を理由付ける事実の全部又は一部を構成する関係にあるものといえる。したがって、両請求に反訴の要件たる関連性が認められることは明らかである。

2 本件賃貸借契約には本件特約があった(乙三)。したがって、被告が行った前記搬出行為が、右約定に基づくものと認められる限り、その不法行為性が否定されることは明らかであるし、他方、本件において、原告が「無断不在壱ヶ月におよび所在不明のとき」も該当したかどうかは、解約申入れの正当事由の有無を検討するうえにおいて極めて重要な事実の一つである。

理由

一  本件の本訴請求は、原告が被告に対し、被告から賃借していた本件居室に被告が不法に侵入し原告所有の本件家財道具を不法に奪って原告の利用を妨げ、さらにこれを再び搬入するまでの間に本件家財中の電気製品を故障させたなどと主張して、不法行為に基づき、損害賠償として総額二〇〇〇万円とこれに対する遅延損害金の支払を求めたものである。

これに対し、被告は、被告が本件居室内に立ち入り本件家財道具を搬出したことは加害行為とは評価できないなどと主張して不法行為の成立を争い、また、仮にこの被告の行為が外形上不法行為に該当するとしても、被告の行為は緊急避難又は適法な自力救済であるから違法性が阻却されるとして、原告の請求を全面的に争うとともに、反訴を提起し、原告と被告との間の本件賃貸借契約は、正当事由を具備した被告の解約申入れにより終了したとして、本件居室の明渡しを求めている。そして、被告は、本件賃貸借契約が正当事由を具備する被告の解約申入れ又は本件特約により終了していたこと、本件建物の老朽化と地盤沈下によって防災、防犯上の観点から放置できずこれを直ちに取り壊すべき状況であったこと、原告が所在不明で、被告は本件特約によって本件居室内への立入りが可能な状態であったことなどを主張して、被告が本件居室内に立ち入り本件家財道具を搬出したことは加害行為とは評価できないと主張するとともに、右の事実のうちの本件建物の老朽化・地盤沈下と原告が所在不明であったことに基づいて被告の行為は緊急避難又は適法な自力救済であった旨を主張し、更に、反訴請求においては、解約申入れの正当事由の基礎となる事情として、本件建物の老朽化と地盤沈下による取壊しの必要性、被告の転居の必要性、原告の建物使用状況、他の賃借人の対応、原告との立退交渉の状況、無人状態の継続、信頼関係の破壊を主張している。

二  民事訴訟法一四六条一項の規定によれば、反訴は「本訴の目的である請求又は防御の方法と関連する請求を目的とする場合に限り」提起することができるとされているところ、右の本訴の目的である請求と関連するとは、本訴請求とその権利関係の内容又は発生原因の点で共通性があることをいい、防御方法と関連するとは、積極否認事由又は抗弁事由とその内容又は発生原因において共通性が存在することをいうものと解される。

これを本件についてみるに、反訴請求原因である正当事由を基礎づける事情は、要するに、本件建物の老朽化・地盤沈下のために被告がこれを建て替える必要性があること、原告は本件居室を倉庫代わりに使用しているにすぎず住居として使用する必要性がないこと、信頼関係が破壊されていることの三点に要約することができるところ、本訴における積極否認事由は、このように本件賃貸借契約が正当事由解約によって終了していたことを前提事情として含むものであるから、本件の反訴請求は積極否認事由とその内容において共通性を有するものということができる。また、本訴の抗弁事由も、本件建物の老朽化・地盤沈下による取壊しの緊急の必要性と原告が所在不明であったということに基づくものであるから、本件の反訴請求は抗弁事由ともその内容において共通性を有するものといえる。

したがって、本件の反訴は、本訴の防御の方法と関連する請求を目的とするものというべきである。

三  ところで、原告は、反訴は原告が異議を申し立てただけで当然に不適法なものとなると主張している。しかし、反訴が「本訴の目的である請求又は防御の方法と関連する請求を目的とする場合」には、相手方の異議があっても適法として許されるものであることは、民事訴訟法一四六条一項の規定から明らかである。原告の右主張は理由がない。

また、原告は、将来仮に本件建物の明渡しを命ずる判決が下されることがあっても、被告の不法行為時点にまで遡って違法性が阻却されるわけではないから、関連性はないと主張している。しかし、反訴要件としての関連性は、反訴が本訴の目的である請求又は防御の方法と「関連」していれば充足されるのであり、当該防御方法ないし反訴請求が最終的に理由のあるものであることや、最終的に反訴が認容されることが本訴を排斥することに直結することまでは必要ではないというべきである。したがって、原告の右主張も理由がない。

四  以上の次第で、本件の反訴は関連性の要件を充たし、かつ、他の反訴の要件をも充たしているから、本件の反訴は適法というべきである。

よって、主文のとおり中間判決する。

(裁判官 岩田好二)

別紙<省略>

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